養子縁組と相続対策

相続権

相続権のあるものは基本的に、配偶者、子、親、兄弟姉妹となります。養子縁組をすると、養子は実子と同様の立場となりますから、これまで相続権のなかった者に相続権を与えることができます。例えば、子の配偶者や孫を養子とすることも可能です。もちろん、遺言書によって財産を遺贈することもできますが、養子縁組には扶養義務を発生させる効果もあります。子の配偶者にお世話になったとか、孫に多くの財産を残したい場合などは、養子縁組は選択肢の1つになります。

相続税対策

養子縁組をすると、子供の数が増えます。これは同時に、法定相続人が増えることでもあります。相続税の計算においては、いくつかの法定相続人の数が関係する制度があり、控除額や非課税枠が増額し、相続税を節税できます。

相続税の基礎控除

計算式:3,000万円+600万円×法定相続人の数

遺産の合計額が基礎控除以下の場合、そもそも相続税は発生しません。例えば法定相続人が3人の場合、3,000万円+600万円×3人=4,800万円までは非課税となります。1人と養子縁組することにより基礎控除が600万円増えることになります。なお、遺産の合計額が基礎控除を上回る場合、その上回った部分につき相続税が課税されます。

生命保険金等の非課税枠

計算式:500万円×法定相続人の数

生命保険は相続税の節税対策として利用されることがありますが、法定相続人の数を増やすことにより、非課税額が増えます。

死亡退職金等の非課税枠

計算式:500万円×法定相続人の数

生命保険金と同様、死亡退職金についても法定相続人の数を増やすことにより、非課税額が増えます。

※ただし、法定相続人の数に含めることができる養子の数には制限があります。被相続人に実子がいる場合、法定相続人の数に含めることができる養子の数は1人まで、被相続人に実子がいない場合は2人までです。無制限に節税できる訳ではない点に注意が必要です。

節税のみを目的とする養子縁組

民法第802条第1号(縁組の無効)
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一  人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき

民法は、当事者間に縁組の意思がないときの養子縁組を無効としています。単に相続税対策のみを目的とする養子縁組が有効か否かをめぐっては、平成29年1月31日の最高裁判例があります。

事例

被相続人は、税理士から孫(長男の子)を養子にした場合、「相続税の節税効果がある」旨の説明を受け、当該孫と養子縁組をしたが、被相続人の死後、長女と次女が本件養子縁組は縁組をする意思を欠くものであると主張し、その無効確認を求めた。

判決

養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

この判決は、もっぱら節税のための養子縁組でも有効としました。節税目的の養子縁組を随分と広い範囲で認めている判決のように思います。よほどの事情がない限りは無効となることはないでしょう。それでも親と子の関係の実態が客観的にも全く存在しない場合には、やはりそのような養子縁組は無効と判断され得る可能性はあるだろうと思います。。

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