相続人が行方不明の場合

不在者財産管理人選任の申立

遺産分割協議は全員で行わなければなりませんが、特に相続人が兄弟姉妹のときや、数次相続、代襲相続が発生しているときなど、長い間疎遠になっていて連絡が取れず、遺産分割協議を進めることができないときがあります。その場合、まずは戸籍の附票を取り寄せて住所を確認します。戸籍の附票とは、本籍地の役所で戸籍と一緒に保管されている書類で、その戸籍がある本籍地にいる間の最初から最後までの住所変更が記録されています。これを辿っていくことで現在の住所地を調べることができます。

住所が判明して手紙などで連絡を取ろうとしても、連絡がつかないということもあり得ます。その場合は相続人が行方不明ということになり、代わりに遺産分割協議に参加する人を家庭裁判所に選んでもらう手続が必要になります。これを「不在者財産管理人選任の申立」と呼びます。

民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。

申立をすると、家庭裁判所は申立書や所在不明となった事実を裏付ける資料を確認した上で,申立人から事情を聴いたり,不在者の親族に照会し、不在者財産管理人が選ばれます。申立書に候補者を記入することもできます。親族や友人でも専門家でも結構です。そうして選ばれた不在者財産管理人が、不在者に代わって遺産分割協議を行うことになります。

ただし、不在者財産管理人は財産の管理をするために選ばれていますから、財産を処分したり、財産を減らすことはできません。つまり、不在者が受け取る法定相続分を勝手に放棄することができないということです。このため、遺産分割協議では少なくとも法定相続分の財産を不在者が取得する内容にする必要があります。

失踪宣告

ちなみに、その後行方不明者が見つからない場合、失踪宣告の手続により処理することになります。

民法第30条第1項(失踪の宣告)
不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
民法第31条(失踪の宣告の効力)
前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、(中略)死亡したものとみなす。

失踪宣告とは、行方不明者が7年間出てこない場合に、死亡したとみなすという制度です。これも裁判所に申し立てをする必要があります。一旦不在者に取得させた財産を、7年後に遺産分割によって分配します。失踪宣告の要件を満たす場合であっても、不在者財産管理人選任の申立をすることは可能ですが、最終的には失踪宣告によって遺産分割が行われますので、不在者が発見される見込みがある場合を除いて失踪宣告を選択した方がよいでしょう。

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