遺産分割と認知症

意思能力

 遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、一人でも欠けている場合は無効となります。これは、相続人全員の合意が必要であることを意味します。合意とは意思が合うことですから、当然に相続人には意思能力が必要となります。被相続人が高齢で死亡した場合、その相続人も高齢であることが多く、高齢の相続人が認知症であった場合、その方に意思能力があるかどうかが問題となります。

民法 第3条の2(意思能力)
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

 2020年改正により新設された条文です。従来より判例や学説では意思能力のない者がした法律行為は無効とされていましたが、改正により明文化されました。ただし、意思能力のない状態とはどういった状態かという定義はこれまで通り解釈に委ねられています。遺産分割協議において意思能力の有無は非常に重要となり、慎重に判断しなければいけません。

認知症患者の意思能力

認知症と診断されていれば当然に意思能力を有していないかと言えば、決してそんなことはありません。認知症には様々なタイプがあり、症状も様々です。どの程度認知症が進んでいるかについても、意思能力の有無には直接の関連性はありません。よって、認知症と診断されていても遺産分割協議に参加できる可能性は十分にあります。家族や医療関係者の方などが皆、認知症であっても意思能力に問題があるとは思っていないといった状況であれば、記名押印により意思を確認できるものと思われます。また、判断がつかない場合には精神科専門医、脳神経外科専門医などの医療鑑定サービスにより、客観的に鑑定を受けるという方法もあります。

意思能力が認められない場合

それでも認知症により意思能力が認められない場合に、遺産分割協議を進めるためにはどうするか。方法は主に2つです。

①成年後見制度の利用

 家庭裁判所に申立をして、認知症の相続人に代わって協議をする後見人等を選任してもらう方法です。ただし、そもそも成年後見制度は判断能力を欠く本人を保護するための制度ですから、成年後見人は本人の財産を減らす行為はできません。具体的には、法定相続分を下回るような遺産分割協議に応じることはできません。よって、相続人同士での自由な分割はできなくなります。また、遺産分割協議を進めることを目的として成年後見人を選任しても、協議終了後に後見人が解任されるわけではなく、後見業務とその対価としての費用の支払いはずっと続くことになります。遺産分割を目的とする成年後見制度の利用は、制度本来の趣旨にそぐわない場合も考えられます。

②法定相続分で分割

 被相続人が遺言を残さなかった場合に遺産を分配する方法は、遺産分割協議によるほか、法定相続分ににって分配する方法もあり、必ずしも遺産分割協議が必要なわけではありません。一般的には法定相続分による分配は避けたほうが良い場合が多いですが、認知症で意思能力のない方が相続人だという場合であれば、その方法を検討する余地も大いにあると思われます。

 家族構成や成年後見人の候補者の有無、法定相続分通りに分配するデメリットなど、さらには相続税なども考慮に入れると、何が最善かはケースバイケースです。後々重大な問題に発展しないよう、是非とも専門家にご相談いただきたいと思います。

次の記事

墓地埋葬法